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煙草のストックよりも常備している思い出は思い出すために そして時々霜が降りそうに凍えた心なんかを溶かすためにあるのだとしたら 今日から先の日の淡いビジョンはチープなビー玉のように今をキラキラ輝かせたりするためのものなのだろうか どこかのキッチンからは温かなシチューの匂いがしていて あの小さなお玉の中には 限りなく素敵な世界を詰め込んでいると思うんだ あの日よからぬ手でへし折ってしまった彼の鼻っ柱を アイスキャンディで冷やしてあげたくなったんだよ そうそう確か私はあの冬 悴んだ指先を君の髪に差し込んで僅かばかりの暖をとってたんだ 君のその滲み出る温かな体温が 嫌で嫌で仕方なかったんだよ 君は隠し持っていたよね 優しさをなぞり形作るための柔らかなペンを どうかそれがへし折られませんようにって スモークの香りに紛れ込ませて夕飯時に飛ばしたよ  
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