第一夜 降臨

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「―――い……おい、刃(じん)ってば!!」 不意に肩を叩かれた俺は驚いて飛び上がりそうになった。 その拍子に、さっきまで手に持っていた厚い革表紙の本が派手な音を立てて床に落ちる。 「やべっ!!」 周囲の視線を感じながら、慌てて本を拾う。 臙脂色の革表紙に包まれた本の背表紙には金色の文字で「魔法史 魔術の発足から現在に至るまで」と書かれている。 ズシリと重量感のある本を担ぐように持ち上げ、俺は目の前の棚に本を戻した。 まるで辞典のように重い本を仕舞い終えたら、無意識に息を吐いてしまった。 そして、俺の背後に立っている人物に顔を向ける。 「なぁ~んだ。やっぱ、太子(たいし)かよ」 声で相手が誰なのか何となく分かっていたが、実際にその人物の顔を見た俺は安堵した。 「なんだはないだろ~。ここ、俺んちだし」 太子は両手を腰に当ててしかめっ面をした。 その両手には高い場所の埃などを掃除する「はたき」が握られている。 「うっせーな。お前が急に声かけるから驚いて本落としちまったじゃねぇか」 そう言いながら、俺は「飛鳥書店」というロゴの入ったエプロンを着ているクラスメイトを睨み返す。 ここで、自己紹介をしておこう。 俺の名前は刃。 黒裂 刃(くろさき じん)だ。 現在、地元の公立中学に通う普通の中学3年生。 歳は15で、先週誕生日を迎えたばっかりだ。 髪と瞳は黒。 ごく一般的な日本人だ。 そして、現在の日付は11月23日。 あと3ヵ月くらいしたら、普通の中学3年生には避けて通れないイベントがやって来る。 ……そう、「受験」だ。 普通じゃない中学生なら、推薦やらなんやらで既に進学する高校が決まってる訳だが。 生憎、俺には人に推薦されるような特技も無く、学校の成績も芳しくない。 さらに、俺は勉強という物が嫌いだ。 どのくらい嫌いかって言うと、机に1時間向かっているだけでノイローゼを起こすほどだ。 ……って言うか、この世に勉強が好きな奴なんて存在すんのか? ……まぁ、そんな勉強嫌いな俺もつい先日、そんな事を言っていられないような状況に追い込まれてしまった。
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