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「飛鳥書店」を跡にした俺は自転車に乗り、自宅への帰路に着く。
現在の時刻は午後7時。
すっかり暗くなった町の中を自転車で突き進む。
さっきは近所と言ったが、あくまで田舎での近所なので、実際には2km近く離れている。
ただ、田舎と言っても別に田んぼや畑のど真ん中に家がある訳じゃない。
普通の住宅地の中を、俺は家族兼用のママチャリで駆け抜ける。
俺がこの街を「田舎」と表現しているのには訳がある。
それは、中学2年の社会化見学で首都東京に行った時、そのあり得ないくらいの発展ぶりにすっかり打ちのめされ、自分の故郷の田舎ぶりを思い知らされたからだ。
まぁ、別にこの街が嫌いな訳ではないけどな。
そんな事を思いながら角を曲がった俺は、次の瞬間信じられない物を目撃した。
キキィッ
自転車のブレーキが甲高い声を上げる。
しかし、咄嗟のブレーキは間に合わず、自転車の前輪が衝突し、俺は自転車から放り出された。
数m前方まで飛び、地面に服を擦り付けてやっと勢いが止まった。
地面に打ち付けた体の痛みすら忘れ、俺はついさっき自転車で正面衝突した物体を見た。
「な、なんだこりゃ!?」
そこにいたのは1匹の生物。
長い尾に先の尖った耳。
暗闇の中からジッとこちらを見つめる紅い双眼。
小さな子供なら一呑みにしてしまいそうなほど大きな口。
そんな口の中から顔を覗かせる白い牙。
ちょうど、沖縄のシーサーに似た外見をしている。
ちなみに、体長は約2m……
シーサーのような生き物は有無を言わさず、突然俺に飛びかかって来た。
しかし、そこは流石俺。
一瞬で身を屈め、迫り来る猛獣の爪を回避した。
……でも、勝てる気がしねぇ。
俺はシーサーに背を向け、一目散にその場から走り去る。
実は、体力と運動神経にはそれなりに自信があるんだが。
ヒュッ
頭上で風を切る音がした。
慌ててその場から飛び退く。
次の瞬間、シーサーの巨大な前足がさっきまで俺のいた場所に振り下ろされた。
シーサーの前足が地面を叩き、アスファルトで舗装された道路に亀裂が入る。
………うん。
やっぱ、勝てそうにねぇ……
俺はさっき以上の速度で駆け出した。
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