第一夜 降臨

7/21

94人が本棚に入れています
本棚に追加
/205ページ
「飛鳥書店」を跡にした俺は自転車に乗り、自宅への帰路に着く。 現在の時刻は午後7時。 すっかり暗くなった町の中を自転車で突き進む。 さっきは近所と言ったが、あくまで田舎での近所なので、実際には2km近く離れている。 ただ、田舎と言っても別に田んぼや畑のど真ん中に家がある訳じゃない。 普通の住宅地の中を、俺は家族兼用のママチャリで駆け抜ける。 俺がこの街を「田舎」と表現しているのには訳がある。 それは、中学2年の社会化見学で首都東京に行った時、そのあり得ないくらいの発展ぶりにすっかり打ちのめされ、自分の故郷の田舎ぶりを思い知らされたからだ。 まぁ、別にこの街が嫌いな訳ではないけどな。 そんな事を思いながら角を曲がった俺は、次の瞬間信じられない物を目撃した。 キキィッ 自転車のブレーキが甲高い声を上げる。 しかし、咄嗟のブレーキは間に合わず、自転車の前輪が衝突し、俺は自転車から放り出された。 数m前方まで飛び、地面に服を擦り付けてやっと勢いが止まった。 地面に打ち付けた体の痛みすら忘れ、俺はついさっき自転車で正面衝突した物体を見た。 「な、なんだこりゃ!?」 そこにいたのは1匹の生物。 長い尾に先の尖った耳。 暗闇の中からジッとこちらを見つめる紅い双眼。 小さな子供なら一呑みにしてしまいそうなほど大きな口。 そんな口の中から顔を覗かせる白い牙。 ちょうど、沖縄のシーサーに似た外見をしている。 ちなみに、体長は約2m…… シーサーのような生き物は有無を言わさず、突然俺に飛びかかって来た。 しかし、そこは流石俺。 一瞬で身を屈め、迫り来る猛獣の爪を回避した。 ……でも、勝てる気がしねぇ。 俺はシーサーに背を向け、一目散にその場から走り去る。 実は、体力と運動神経にはそれなりに自信があるんだが。 ヒュッ 頭上で風を切る音がした。 慌ててその場から飛び退く。 次の瞬間、シーサーの巨大な前足がさっきまで俺のいた場所に振り下ろされた。 シーサーの前足が地面を叩き、アスファルトで舗装された道路に亀裂が入る。 ………うん。 やっぱ、勝てそうにねぇ…… 俺はさっき以上の速度で駆け出した。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加