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季節は冬。
街が色恋に輝きはじめるころ、浮かない気持ちの少女が1人。
賑やかな人混みを歩いていた。
雪により白く染まった道は、足を進めるたびにさくさくと音をたてる。
少女の瞳は、見るからに落胆の色を見せていた。
彼女の名は純。
東洋出身の、現ノアである。
数年前にノアとして覚醒し、それ以来第一使徒千年伯爵のもと、『家族』と暮らしている。
そんな彼女が街中に、しかも1人でいるのには訳があった。
「ティキ…。」
そっと、無意識に愛しい彼の名を呟く。
ティキ・ミック。
純と血をわける家族であり、誰よりも愛しい恋人だ。
もう数週間、会っていない。
明日は聖なる日。
今日は、もっとも好意を抱く彼と過ごしたい特別な夜。
だというのに、連絡すらとれない日々が続いている。
彼は快楽のノアだ。
能力や他のノアと比べたときに、千年公の期待が彼にむくことは良くある。
同時に、就く任務の数も多い。
仕方がないことなのだが、純としては複雑だった。
彼の前では決して言わないが、寂しく感じていないはずがないのだから。
今回街に来たのは、一応今日の買い出しのためだ。
彼が帰ってきたときに、迎えてあげられるように。
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