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ひととおりの買い物を終え自分の拠点である街中の、レンガ造りの館へと帰る。
ここは純が伯爵に用意してもらった専用の館で、自分と数体の使用人AKUMAしかいない。
場所を知っているのは伯爵と自分、そしてティキだけだ。
純は、彼と二人きりで過ごすときはいつもここを指定する。
今回は約束も何もしていないが、彼ならわかるだろうと淡い期待を胸に、純は夜を過ごすための準備にとりかかった。
料理は勿論、部屋の掃除、テーブルクロスや花瓶の花…手をかけられるところは全部手掛ける。
そして満足したころ、すでに辺りは夕暮れ。
仄かに暗闇を移した茜の空に、うっすらと月が姿を現しはじめていた。
準備は整い、あとは、彼が来てくれることを願うばかり。
きっと彼ならば、約束がなくてもわかってくれる。
自分がここにいることも、きっとわかってくれる。
そう信じて、純は一人、空が夜に染まるのを待った。
やがて太陽が姿を消し、灯りを灯していない館の部屋が闇に閉ざされる。
彼はやはり来れなかったのか…そう思うと、少しは予想していたにも関わらず視界が揺るんだ。
目もとにたまった水が一筋、頬を伝ってはじける。
その刹那。
部屋に備えられ、消えていた蝋燭すべてに
灯りが灯った。
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