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「アルベルト!!もっと疾く駆けよ!!」
おてんばな妃は、年相応な笑顔を振りまきながら騎士の肩を叩く。
「振り落とされぬよう、しっかりお掴まりください!!」
危険だとはわかっている。いつもならば止めているだろう。しかし、しばらく振りにはしゃぐ妃を見た。それが騎士の心にゆとりを作る。今日ぐらいは、彼女の心のままに…と…。
「見よ!!海岸じゃ!!アルベルト!!止まれ!!」
「了解。」
馬を止めると、息付く暇もないまま、妃は馬から飛び降り海へ駆けた。
「転ばぬように!!」
「たわけめ!!わらわが砂浜ごときに足を取られるはずが……!!」
言い終えぬうちにご転倒なさる妃。
「……メフィス様…だから言いましたのに…。」
「だ…黙れ!!わざとじゃたわけめ!!」
はいはいと頷き、騎士は馬を休ませるために水や餌を与え始めた。
そんな騎士を横目に妃は海を眺めながらぽつぽつと言葉を紡ぐ。
「のう…アルベルト……わらわは思う。…妃になってから、変わらず接してくれるのはそちと王だけだと……。」
騎士は密か肩を揺らしながら、答える。
「……皆、メフィス様を案じているのです。貴女はこの国の宝ですから。」
すると妃は、形の良い眉を寄せて呟く。
「……それではわらわは孔雀ではないか。」
なるほどと頷こうとした。しかし妃の表情の陰りがそれを引き止める。
「孔雀はお嫌いですか?」
「あんな重苦しく派手なだけの羽など要らぬわ。わらわはもっと身軽で良い。」
「なるほど…貴女らしい。………ではどのような在り方をお求めか?」
問えば妃は実に生き生きと答えた。
「そうだな。……わらわは鷹だ。この国を、民を、王を包み育み護り抜く。まさに守護神じゃ!!そんな強い、鷹の様に在りたい。」
騎士は妃の横顔に見入っていた。王の妻でありながら…庇護される存在でありながら……この方は守護する道を選んでいる。年下とは思えないこの思想に、騎士は震えが止まらなかった。
過酷であるとしか思えない道を、これ程清々しく、輝いた顔で進もうとする者を騎士は初めて見た。
強い瞳に、妃の覚悟を騎士は感じ取る。そして改めて想った。この方の…力になれたらと…。
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