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「わらわを妻に迎え入れるときに、王も承知してくだされた。……ふふ……我が妻は頼もしいと。」
不意に胸に刺が刺さる。……わかっている。この想いに気付いてはならない。脈打つ鼓動に見えない刃を刺して、妃に向き直る。
呆けた妃の前に跪く。
「守護神とならば戦いは避けられませぬ。となれば剣が必要でしょう?・・・その役目・・このアルベルトにお任せを。貴女様に・・忠誠を。」
「・・・・そちは我が夫・・ラルド王に忠誠を誓った身ぞ。その誓いを違えるか?」
咎める妃の声は鋭い。その分、王への愛の深さが感じられた。
「・・おっしゃる通り。・・しかし私は、身命を捧げるべく主を見つけてしまった。私の主はメフィス様ただ一人。・・このような心持で王に仕えるは失礼千万。お気に召さぬならば、今ここでこの首をお切りください。」
沈黙が流れた。時を忘れるほどの重い沈黙が。やがて、妃が腰の宝剣を抜く。美しい刀身の装飾が西日にきらめく。
その切っ先が額に突き付けられた。騎士は億することなく、主を見据える。
剣が横に奔り、騎士の長い髪のみが地面に落ちる。
「・・・このメフィス。そちの覚悟しかと受け止めた。この時よりそちは我が刃。誰にも何も言わせぬ。無論王にもな。断髪はその証。切った髪はわらわから王へ届けよう。」
「もったいなきお言葉。我が命は・・メフィス様と供に。」
騎士は妃の手を取り、そっと口づけた。そして妃は宝剣を鞘にしまい、騎士の前へ差し出す。
「これはわらわの国に伝わる宝剣。そちがわらわの剣となるなら・・・この宝剣・・そちに託そう。・・よいな。アルベルト。」
手渡された剣は重い。いつかこの重みにつぶされるのだろうかと・・不安がよぎる。しかしすぐにそれは消え去った。
「メフィス様のご意思のままに・・。」
「・・・・ソプラ・・??」
不意に妃が宙を見据えた。声が聞こえた気がした。
幼少の頃出逢った不思議な者達・・わらわの友。
そうか・・遠方よりわらわを見守っておるのだな。・・・案するなソプラよ。例えこの先が滅びにつながっていようとも・・わらわは最後の一片まで・・幸せでいられるのじゃ。
これほど愛しい者たちがたくさんいるのだから。
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