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総括機関は、読んで字のごとく、総てを括る、世界を纏める機関だ。だからそれ相応の規模があるし、拠点となる建物も相当に大きい。
王となり世に君臨するものは、その世界に見合うだけの器、魅力――いわゆるカリスマが必要不可欠だ。トップは常に憧れの的でなくてはならないし、圧政に走るのでなければ、敵視されるなど、もってのほかだ。しかしそんなことは人間にできる振る舞いではないので、これまで幾度となく王は君臨し、そのたびに首がすげかわっていった。
だから――騎士団は、政治を捨てた。
人を守るナイトが倒れ、すげかわってはいけないからだ。
オリオンの父、ハイエルが、貴族だとかお偉い方に媚びを売っていたのもそのためだ。内側から固めていく、正当な政策。王として生きていくための、真っ当な策。策と言うのすらおこがましい。
夕陽には、政治などわからないのだけれど。
夕陽は扉の前で一礼し、ノックを二回。それからようやく、重い扉をゆっくりと押した。総括機関の扉は、全てが一般の人間よりも位が上なのだ。礼儀を欠けば、死罪だ――エリアに言われて、初めてそんな素っ頓狂なことを知った。
総括機関は、過度なまでの威厳を保つことで、リーダーの座に居座るつもりなのだろう。
まるで――狼だ。
――犬とは、格が違うな。
夕陽はそんなことを考えて、苦笑した。そんなことを考えていなければ、気が滅入りそうだった。
建物の中は、やはり、ほぼ白一色に染まっていて、目が痛くなる。それでも目をこじ開けて辺りを見回すと、壁には騎士団前団長オリオンの絵が彫られていて、今度は頭が痛くなった。
白いカーペットでできた道を進み、一際白く輝く二本の柱に挟まれた、今にも発光しそうなほどに手入れのされた扉の前に立つ。建物自体が巨大な上、扉の数が多く、階段もあるので、そこに辿り着くのに、かなり時間がかかった。
帽子をかぶっているから、頭が蒸れる。かかなくてもいい汗をかいてしまうから、夕陽は、この帽子があまり気に入ってはいない。
帽子など――所詮、日を避けるための傘でしかない。
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