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「さて、如何いたしましょうかねえ」
暗闇に覆われ畳を敷いた部屋の片隅、今にも折れそうな脚を曲げ、老婆が座っていた。
木製の歪んだ卓袱台に乗せた手はしわがれていて、一枚の写真を見つめる目は潰れているようにも見え、そうなると流れ落ちる涙さえも、どこか淀んでしまっているように見える。
彼女は、衰弱しきっていた。体もそうだが、心が。
「騎士団相手に武力で攻めるのは、やっぱり不利だしねえ。そもそもこちらには、頭でっかちな奴しかいない。困ったもんだねえ」
ぽつりぽつりと、掠れた声が暗闇に落ちて、溶け込んでいく。そのたびにその体は不安定に震え、生まれながらの白髪が音をたてる。
夕立が、今にも落ちてきそうな屋根を叩き、暗闇は雨音に支配された。
老婆の拳が、震える。
悲しみに、焦燥に――怒りに。
唇を噛むと、血が流れ出た。鮮血――真っ赤で、赤い、
赤い――
「――オリオン。あなたの仇は、必ずとるわ」
絶対に。
赤い雫は、契約の証。
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