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「ああ、さっきのか」
夕陽は思い出し、軽く赤面した。それほど意識せずに発した言葉を、エリアが注意深く聞き取っていたからだ。
自分の知らない自分自身さえも、見透かされているような気がして。
自分の中に渦巻く、本能的な衝動――野性的で、破壊的な感情。むずむずと、今にも表皮をひっぺがして、表に這い出て来そうな内側。
こんなものが現れたら――いや、内在しているというだけで、徐々に夕陽の理性をめためたに陵辱しているのだ。
取り繕うように、夕陽は意識せずに言葉を発する。
「まあ、エリアは僕の唯一無二の友達だからな。お前には迷惑かもしれないけれど、悪いね、最大限の友愛を以てお前と接しているよ」
「あ、なるほどね。友達……ね」
照れているのか、エリアは俯き、しかしどこか残念そうだ。
悲しそうにも見える。
「……橘くん、多分、騎士団の補充員に抜擢されるんじゃないかな」
「え?」
ぽつり、と呟くようなエリアの言葉。
これは、彼女の意識から発せられたものなのだろうか。それとも、無意識からか。俯いたその表情は影になっていて、判断ができない。
混乱する。
「だって、そうでしょ。ソフィア様に呼ばれたんだもん。絶対、そんな感じの大事な話だよ」
そう言うエリアは、ふざけたように笑っていて、悲しそうだった。
意識と無意識。
相反する感情が――複雑に。
「――お前も、ばかじゃねえか」
気づけば、夕陽はそんなことを口走っていた。うずくまったままだから、何となく恰好がつかないように思える。滑稽な絵面だ。
エリアは目をぱちくりさせ、夕陽を見つめる。
「騎士団にって言ったって、同じ街で、しかも目と鼻の先じゃねえか。僕らが会おうと思えば、いくらでも会える距離だ。友達だしな。――それに、その口振りから察するに、異動ってのは、確かな情報じゃなくて、お前の妄想なんだろう? だったら、答えを出すのは早計さ。焦ったって、何もいいことはないぜ。じっくり、獲物の動向を伺うんだ――」
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