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「獲物って――そんな話じゃないでしょ。橘くんって、いつもそうだよね」
「そう?」
「うん――犬みたい」
感性が、だろうか。だとしたら、これは酷い侮辱だ。犬の感性など、夕陽には全く伺い知れないが。
いつも――エリアからすれば、いつも犬のようだと言うのか。
夕陽は戦慄した。
「でも、まあそうだよね」
エリアが、いきなり何かを肯定し、何度も頷いた。犬についてだろうか。夕陽には何を言っているのかわからず、結果、意味もなく姿勢を正すことになる。
「たしかに、うん、学校だけが世界の全て、ってわけじゃないし、そんな歳じゃないもんね。なるほど、橘くんは聡明だなあ」
「誰だ、犬みたいって言ったのは」
「まあまあ」
「まあまあじゃねえよ」
「わんわん落ち着いて」
「わんわん言うな。やっぱり犬扱いしてるじゃないか」
夕陽が橙色に輝く瞳で睨むと、エリアははぐらかすように笑った。――思えば、彼女の笑顔にはずいぶんと救われたのではないだろうか。
たった一人の、友達だから――
「いつだって、会えるよね」
エリアは、おそらく無意識に、そう呟く。
窓の外に目をやると、ちょうどカラスが、かあと鳴いた。
総括機関。
騎士団団長オリオンの代に、騎士団は治安維持にのみ努めるため、彼は姉のソフィアに新しく機関を創らせ、政権を担当させた。政治のみを司る――それが、総括機関。
オリオンが政権を放棄したのは、戦いに専念しようとしたのは、単なる気まぐれと言うわけではない。そうせざるを得なかった、理由があるのだ。
そしてそれは、今も世界的な問題として横たわっている。
第二次聖戦危機で、勇者が魔物の母体“聖典”を倒し、騎士団が魔物の残党を壊滅させ、それで平和になったかというと、そう言うわけではなかったのだ。
夕陽は総括機関の入り口、大きな扉を見上げ、憂鬱な気分を溜め息に込めて、吐き出した。
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