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靄の向こうから声がするようだ。少女はその声を追いかける。しかしどんなに彼女が前に進もうとも、闇が視界から消え去ることはない。だが、少女はなにも疑いを持たず、見えない声の主に問いかけた。
「どこなの?」
――だから、ここだってば。
はっとして、少女は足を止めた。その小さな体に触れるものがある。
「なあに?」
少女は靄に手をのばす。その瞬間、手首を掴まれ、ぐいと引っぱられた。突然のことに、少女は緑の目を見開く。
「だ、だめっ」
このときになって、少女は事の重大さに気がついた。
夜は魔物の時間。
兄たちの言葉を思い出す。彼らは何度も何度も言った。日が暮れたら、一人で外に出てはいけないよ、と。魔物に食べられてしまうから――。
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