プロローグ

4/9
前へ
/60ページ
次へ
「あたし、帰る!」  必死に少女は叫んだ。掴まれた手を引き抜こうとしたが、四歳の子どもにそれだけの力はない。  ――今ごろ気づいても遅いんだよ。  闇の声が一変した。しわがれた低い声が、少女の体を強張らせる。  ――それにしてもうまそうな人間だ……!  少女の背に寒気が走った。助けを呼ぼうにも声が出ない。魔物の罠なのだろうか、体が動かなくなってしまっている。  助けて。体が引きずられるのを感じながら、少女は痛切に願った。  だれか、助けて――。  おそろしいほどに、辺りが静まりかえる。もうだめ、と少女が目をつぶったときだった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加