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音を聞いた。
あまりにも小さくて普段なら聞き逃すくらいの音。
何かが擦れあったような音。
さら、
さらさらさら、
さらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさら。
次第に音が大きくなる。
うるさく感じた私は耳を塞いだが、大した効果は得られなかった。
さらさらさらさらさら。
耐えられなくなって、無駄とは思いながらも目を瞑る。
真っ黒、いや真っ暗な世界が広がると、さらさらと鳴り続けていた音はぴたりと止んだ。
無音の空間。
私は気がつくと両の足で何処かに立っていた。何とはなしに歩きだす。
すっかり仕事をなくした視神経に代わり、足の感覚が地面の存在を知らせてくる。
しかし、先も見えなければ終わりにも着かないのだ。
私はただひたすら、歩き続けていた。
真夜中。
パシャ、と水の跳ねる音が響く。もう一度、もう一度、もう一度、一定の間隔をおいて水飛沫が上がる。
闇に紛れて湖の畔(ほとり)を歩く人影があった。湿原のように水溜まりが多く足場は悪いが、迷いなく足を運んでいく。
と、不意に人影が立ち止まった。
「…………?」
視線の先には1.5メートル程の長さの物体が横たわっていた。動き出す気配はない。暫く考える素振りをしていた人影は、その物体を持ってまた歩いていく。
進む先には、何もかもが黒い空間に似つかわしくない、純白の巨大な城が見えた――。
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