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「私たちは、お前のことを戦力として欲しているのではない。クラウド、お前自身が必要だからこそ欲するのだ」
「…俺が、必要?」
ようやく言葉を放ったクラウドの声には、まったくと言っていいほど力がなかった。
虚ろとなった瞳。
無表情なのに感じられる悲しみ。
溢れる涙。
セフィロスの虚言を自分の抱えていた思いと重ねてしまったクラウドは、最早何が“本当”で“嘘”なのかがわからない。彼の精神がボロボロだということしか、ここに真実は存在していなかった。
「私たちはお前を見捨てたりしない。本当の仲間として、迎える準備が出来ている」
だからこそ、彼の言葉に揺さ振られてしまう。
「私たちの元へ来い、クラウド」
普段ならば、本来ならば、絶対に良しとしないその誘(いざな)い。
「……行く」
だがそれは、今の彼にとっては甘美なるものでしかなかった。
セフィロスは、そのまま目を閉じて崩おれたクラウドを抱きとめると、不気味にも美しい微笑みを浮かべた。
――――堕ちた。
「これで、役者は揃った」
舞台の幕は上がっている。後は演目を披露するのみ。その中で起きる些細なアクシデントはつきものだ。
さて、これから一体何が起こるのか。
「愉しみだ。なぁ、クラウド?」
濡れている目元を指で拭い去り、クラウドを抱きかかえると歩きだす。
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