その瞳が呼んでいる

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知った時にはすべてが遅かった。 あなたへの愛は引き返せないところまで来てしまっていたから。 目を閉じただけであなたの全てを思い出せるくらい。 例えばそう。 タバコを吸うあなたの横顔。 私の髪を撫でる優しい指、大きな手。 柔らかくてサラサラした茶色い髪。 広い背中。 長い足。 私を抱き上げる力強い腕。 薄くてキレイな唇。 熱く見つめる、メガネの奥の優しい瞳。 そのどれもが私だけのものだと信じて疑わなかった。 あなたが月に一度しか私のマンションに泊まらない事も。 キスマークを付けるのを嫌がる事も。 本当は気づいていたのかな。 気づかないフリをしていただけかもしれない。 だけど知りたくなかった。 こんなにあなたなしでは生きられなくなってるのに。 こんなに愛してしまったのに。 今更遅過ぎる。 もうどうにも出来ないよ。 私はあなたと別れられない。 あなたにいつか捨てられても、あなたを嫌いになんてなれない。 あなたが、別の人のものでも――――
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