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「…わからぬな。」
フッと微かに形の良い小さな唇が弧を描いた。
「まことにわからぬ。だが、それがをかしくて妾たちは生きているのやもしれぬな。」
先ほどの儚げな声に打って変わって今度は楽しそうに弾んだ声をあげた。
「だいぶ身体が冷えてしまった。愁花、そちも寒かろう?今宵の月見は終わりじゃ。中へ入ろう。」
クルリと欄干に背を向ける紅凜。
「はい…。」
そんな彼女に小さく頭を下げてから垂れていた御簾を上げる。
衣擦れの音が廊下に静かに響いた。
月明かりに照らされた庭は仄かに明るく、神秘的な光をはなっている。
ひらりひらりと雪が舞い始め寒さがより際立つ。
そんな光景を知っているのは、宵闇の空にただひとつ輝く月だけだった。
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