第六章:もう一人の自分

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「・・・ん」 いつの間にか、疲れはてて眠っていたらしい 辺りが暗すぎてよく見えない 「よぉ。目が覚めたか?」 声からして男の様だ 暗すぎてよく分からないが、小さな赤い光で煙草を吸っているのが分かった 「誰?」 「俺か?俺はお前だ。そして、お前は俺だ」 「意味がよく分からないよ。それに、ここはどこなの?」 「ここはお前の精神の底だ」 「じゃぁ、お兄さんは僕の描いてるもう一人の僕なんだね」 「違う」 男の、もう一人の那由多の声はどこか楽しげだった 「意地悪しないで教えてよ」 「パラレルワールドって知ってるか?」 「意味は知らないけど、平行世界の事でしょ?」 「そうだ。人のみ成らず、全ての生命には様々な分岐点、道があるわけだ。そして全ての生命は全ての道を歩き続ける だが、道には分かれ道がある。その時に生命は分離し、他の道を歩き続けるんだ」 「えっと、話が見えないんだけど」 「話は最後まで聞け」 話の邪魔をしたせいか、那由多は拳骨をされた 「ひゃい」 「道には必ず壁がある。これが何を示すか分かるか?」 「・・・死、かな?」 「正解。だが、稀に例外がある。そこには壁はなく、ただ道が途切れているだけだ。勇気を振り絞り、その道を進むと他の道に干渉できるようになるんだ」 「それが今の状況?」 「そうだ。他の道に干渉できるようになった俺は、俺と同じ過ちを犯さない様に俺を見張っているんだ」 「つまり、僕の道は僕が通った道なんだね」 那由多のの答えを聞いたもう一人の那由多は何を思ったのか、指を鳴らした その音と供に周りの景色が明るくなっていく 「さて、ここからは先輩かのアドバイスだ」 那由多の前に座っていたのは、成長し、大人になった那由多がいた 「お前がこのまま歩めば、そこにあるのはただの虚無だ」 「虚無?」 「何にもない世界。ただの空間があるだけだ」 「どうしてそうなったの?」 「・・・・・・お前がやったんだ」 那由多は凍り付いた もう一人の那由多の答えは、あり得ない事だと思った 「信じろとは言わない。だが、俺の言っている事は真実だ」 「・・・どうすれば良いの?」 世界を破滅に追いやる存在になりたくはない那由多が言えるのはそれだけだった
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