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家に向かう途中にある商店街を、優はいつもよりゆっくり歩いていた。
帰りたくない…
家に向かう足どりが重い。
優の頭から貞操の二文字が離れない。
貞操って、俺そっちの気ないんですけど…でも今の俺に選択肢はない……
優は深く溜息をつき、うなだれる。
暫くすると、何処からか甘い香が漂ってきた。
あ…いい匂い…
甘い香のする方に向かうと、小さな屋台があった。
「いらっしゃい!!」
色黒で筋肉質なお兄さんが、額に汗をかきながら魚の形をした鉄板をひっくり返していた。
たいやきか…
そういえば、朝家を飛び出してきたからあいつの飯用意してなかったな…って悪魔って飯喰のか?
優はたいやきを見ながら顎に手をあて考えていた。
「うちのたいやきは、外はカリッと中はもっちり!具はあんことカスタードと苺チョコがあるけどお客さん何にします?」
店員はにかっと白い歯を輝かせて笑った。
「あ、えーと、あんこと苺チョコを1個づつお願いします」
優は買うつもりはなかったが、店員の問いかけに思わず答えてしまった。
「あいよ!」
店員は手際よくたいやきを焼き、紙袋に詰めた。
優は品物と引き換えに代金を店員に渡す。
「はい!まいどあり!!」
優は店員に軽く会釈し屋台を後にする。
しまった…焼きたてだから早く帰って食べないと
優は帰りたくない気持ちはあるが、焼きたてのたいやきを買ってしまったのとカイトがお腹を空かせているだろうと思い、足速に家へ向かった。
「はぁ…ただいま」
優は息をきらせて、玄関の扉を開けた。
あれから気がつけば、家まで走っていたのである。
「あれ?」
部屋の中は明かりが付いていないため薄暗く、窓から夕日の光がうっすらと差し込んでいた。
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