第2章 進級試験

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居ないのか… 優は少しがっかりし、壁のスイッチを押し、リビングの明かりを付ける。 「遅い」 「ひっ」 優は背後からの声に驚き、慌てて振り返る。 そこには腕を組、不機嫌そうな表情のカイトが立っていた。 「お、脅かすなよ…」 「お前…自分の立場がわかっていないようだな」 「な、何だよ…」 優はカイトの迫力に思わず後退りをしてしまう。 「ふぅ…まぁいい…次からは暗くなる前に帰ってこい。お前はそこら辺の人間とは違う…」 「何だよ…他の人と違うって」 優は眉間に皺を寄せ首を傾げた。 「時期にわかる…それより」 カイトは優に近寄り、くんくんと匂いを嗅ぎ出した。 「何だこの匂いは?」 「ん?あぁこれか?」 優はカイトの顔の前に、紙袋を差し出した。 カイトは紙袋を開け、中身を取り出す。 「?」 カイトはたいやきをまじまじと観察している。 「たいやきって言うんだ。美味しいから喰ってみろよ」 カイトは優に促され、たいやきにかぶりついた。 うわ…腹からかよ カイトの口の端しから赤い果肉が滴り、かぶりつかれたたいやきの腹から赤黒い中身がドロリと溢れる。 苺チョコか…なんかコイツがかじるとやけに生々しいな… 優は胸を摩った。 「不思議な味だな…」 「まずいか?」 「いや…美味い」 カイトは再びたいやきにかぶりついた。 そんなカイトを優は見つめていた。 黒く艶のある髪、白い肌、形のよい唇、切れ長の目と紫色の瞳、細くて長い指…髪の色と瞳の色以外は兄さんにそっくり… そういえば兄さんも、たいやき好きだったっけ… そんなことを思いながら、優はたいやきを一口かじった。 「ユウ」 「あ、あぁ…何だ?」 カイトの呼びかけに、優は我にかえる。 「ユウ、口元が汚れている」
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