第3章 夢

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「行ってきます。」 戒斗は靴を履き、ドアへ向かう。 「っ兄ちゃん!」 小さな優は、今にも泣きだしそうな表情で戒斗を呼び止める。 「兄ちゃん…すぐ帰ってくる?」 不安だった…兄さんがもう帰ってこないような気がして… 「優君どうしたの?お兄ちゃんは、お仕事に行くだけよ?」 違う、そうじゃないんだよ母さん! 「兄ちゃん…」 「っ!優…」 戒斗の顔が一瞬苦しそうに歪んだように見えたが、次の瞬間にはいつもの穏やかな表情に戻っていた。 「すぐに帰ってくるよ…。」 「ほんと?」 「本当だ…そうだ、帰ってきたら優の好きな絵本を好きなだけ読むと約束するよ。」 「…うん、じゃあ約束っ」 小さな優とカイトは指きりをする。 「…指きった!優、僕が帰ってくるまで、いい子にしてるんだよ?」 「うん!」 嘘だっ!ずっと待ってたのに、帰ってこなかったじゃないか!約束なんていらない…いらないから… 「じゃあ、行ってきます。」 「気をつけてね。」 母は優しく戒斗を見送る。 戒斗がドアノブに手を掛ける。 「行かないで!」 優の伸ばした手が戒斗をすりぬけ、空を掴む。 バタン- 無情にも扉は閉まる。 「行かな…で…」 優はその場に崩れ落ちる。 絵本も、約束もいらない…お願いだから行かないで…一人にしないで… 「くっ…兄さん…!!」 優の頬を涙が伝う。
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