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「行ってきます。」
戒斗は靴を履き、ドアへ向かう。
「っ兄ちゃん!」
小さな優は、今にも泣きだしそうな表情で戒斗を呼び止める。
「兄ちゃん…すぐ帰ってくる?」
不安だった…兄さんがもう帰ってこないような気がして…
「優君どうしたの?お兄ちゃんは、お仕事に行くだけよ?」
違う、そうじゃないんだよ母さん!
「兄ちゃん…」
「っ!優…」
戒斗の顔が一瞬苦しそうに歪んだように見えたが、次の瞬間にはいつもの穏やかな表情に戻っていた。
「すぐに帰ってくるよ…。」
「ほんと?」
「本当だ…そうだ、帰ってきたら優の好きな絵本を好きなだけ読むと約束するよ。」
「…うん、じゃあ約束っ」
小さな優とカイトは指きりをする。
「…指きった!優、僕が帰ってくるまで、いい子にしてるんだよ?」
「うん!」
嘘だっ!ずっと待ってたのに、帰ってこなかったじゃないか!約束なんていらない…いらないから…
「じゃあ、行ってきます。」
「気をつけてね。」
母は優しく戒斗を見送る。
戒斗がドアノブに手を掛ける。
「行かないで!」
優の伸ばした手が戒斗をすりぬけ、空を掴む。
バタン-
無情にも扉は閉まる。
「行かな…で…」
優はその場に崩れ落ちる。
絵本も、約束もいらない…お願いだから行かないで…一人にしないで…
「くっ…兄さん…!!」
優の頬を涙が伝う。
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