第1章 契約

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「これで良いですか?」 優は小瓶を店員に渡した。 「えぇ十分です!あぁ美しい…」 店員は小瓶を蝋燭の明かりに翳しながらまた独り言を始めた。 「あ、ありがとうございました…」 優は店員に深々と頭を下げ、足速に店を出た。 優が去った後、店員は店のドアを見つめ今までよりさらににんまりと不気味に笑った。 「またのおこしをお待ちしております…」 夕焼けが眩しいほど照らしていた空に、刻々と夜の闇が迫っていた。 アンティークショップを出た優は急いで自分が住んでいるマンションの近くにある河原に向かった。 周りが見えなくなるまえに、本の召喚術を試さないと! 試験日まで時間が無い 一秒でも早く召喚術を試すために、優は全速力で走り続けた。 「はぁはぁ…や、やっと…着いた…」 河原に着いた優は疲労のあまりその場に座り込んだ。 辺りはすっかり暗くなり、街頭の明かりが地面をうっすらと照らしていた。 優は辺りを見回し、人が居ない事を確認する。 幸運なことに人どころか野良猫さえ居なかった。 「よし…えーと、ここがこうで星の中に…ん?なんだこれ…まぁ似たように書くか」 うっすらと見える地面に河原に落ちていた木枝で、魔法陣を書いてゆく。 「…で、後は契約を望む者の血」 またかよ…今日はやけに血がならむな… 優は不思議に思いながら鞄を探り、筆箱に入っているカッターナイフで人差し指を切る。 「いでっしまった…さっき針を刺したところを切ってしまった」 優は目に涙を溜めながら、己の愚かさを呪った。 「えーと血を垂らして、と…」 血を魔法陣に垂らし、本のページをめくる。 「あ、これか…コホン…我は汝との契約を望む者、深き暗黒の闇より姿を表せ…」 次のページをめくって、優は目を疑った。 「うそ…滲んでる」 精霊を召喚するうえで最も重要な、精霊の名前が滲んでいたのである。 くそっここまで来て名前が滲んでるなんて… 優はがくりとうなだれた。 カッターナイフで切った指が疼く… 疼くたびに悔しさと怒りが込み上げる。 「こ…こんなとこで諦めてたまるかぁぁぁぁッ!!」 優は本に顔を近付け、目を見開いて滲んだ文字を一つずつ必死に読み取る。 「め…ふぃ…と…れす?」 どこかで聞いたことがあるような… 「めふぃ…とれす…」 優は瞳を閉じて呟く。 -メフィストフェレス- 頭に浮かんだ名を口にする。 「メフィストフェレス…」
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