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《神主さま、神主さま……》
そう神主に呼び掛けるのは、人間では無く一本の桜の木だった。そしてそのまま、桜の木は神主に話し掛ける。
神主さま、桜の木のわたしには進学塾が無縁なことくらい分かってます。人間の勉強したって、無意味なことくらい、ちゃんと分かっています
でもね、違うの神主さま……。好きなひとがいるの……。
この神社に一本だけ咲いている桜の木のわたし……。そしてこの場所からは隣の進学塾の授業風景が見られるの。
わたし、その風景をずっと見ていて思ったの。
張り詰めた空気の中、その中でもがんばってるなって、思う人が。まだ顔しか見たことがありません。声も聞いたことがないし、名前もわからないけれど。
《彼の真剣な横顔を、好きになってしまった》
だけどもう、見られなくなってしまう。
わたし知ってるんです。この神社は立ち退きにあってしまうのよね。あと、たった一週間で……。
そうなればわたしは、伐採されてしまうのでしょう?咲いていられるのも、あと一週間なのでしょう?
だから、神主さまにお願いがあります。
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