第一の事件(上)

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『高井さんの秘書はどのくらいになるんですか?』 『もう5年程になります…』 『そうなんですか』 酒井を見ると昔を懐かしむような遠い目をしていた。 『高井とは幼なじみなんです。 高井が社長になり、職に困っていた私を秘書として雇ってくれたんです』 そうだったのか… 『そのとき高井さんはもうご結婚を…?』 『…ええ…… 早苗様とご結婚しておりましたが…?』 酒井の様子を注意深く伺いながら、おれは話しを進める。 『高井さん…いえ、義晴さんとはただの社長と秘書の関係でしたか…?』 『……どう言う意味でしょうか?』 おれは彼女の目が一瞬暗く沈んだように見えた 『酒井さんと義晴さんが二人で宝石店にいたとの情報があります』 『…』 彼女の肩がピクッと震えた 『それが本当なら何故でしょうか?』 室内にあるのにも関わらず、彼女の手の甲が徐々に濡れ始める 彼女はそれも気にせずに、手に力を入れズボンを強く握りしめていた 静寂の中…時計の針が時間を刻む音と、彼女の堪えきれない嗚咽だけがおれの両耳を刺激していた。 『話してくれませんか…?』 おれは諭すように優しく微笑みかける。
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