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初めて彼を見たのは、確か中3の春だったと思う。
1年間頑張った新聞配達を辞めたその足で向かった近所の神社。
受験前だし、どうせなら楽なバイトにしようと考えていたところ、タイミング良く舞い込んだ母親の紹介。
今思えば、全て必然だったのか。
鳥居をくぐり、はらり、はらりと桜舞い散る参道を境内に向かって歩いてゆくと。
手水舎の脇、柔らかな日差しの当たる豆柘植の植え込みの陰。
汚いボロ布を纏った男が座り込んでいた。
“ホームレス…?”
布切れから覗く薄汚れた顔が予想外に若い気がしたが、関わり合うつもりも当然無く。
さっさと社務所に向かい宮司に挨拶を済ませ、来た道を戻った。
帰り道の手水舎には、もう人陰は消えていた。
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