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真っ暗だ。 こぼれて染み着いた薬品の臭いがする。 懐中電灯の照らすライトの先には、床に散らばった硝子ビンの破片。 まだ二つ目の部屋だというのに、何とも言えない異様な空気が漂っている。 私の服の袖を握っている、巳野叶恵(みのかなえ)が緊張した声を出した。 「ねぇ、やっぱり止めない…?」 彼女の手がかすかに震えている。 「今さら何言ってんだよ。行きたくないなら一人で外で待ってろよ」 腰に両手をあて、大木拓也(おおきたくや)がため息をついた。 大木の言葉を聞いた、南徹(みなみとおる)が叶恵を気遣っている。 「そんな一人で待ってるなんて、そっちの方が怖いに決まってんだろ?巳野、大丈夫だって。何も出ないから」 「そうだよ。大丈夫だって」 私はそう言ってから、叶恵に微笑みかけた。 彼女の言うことは、分からなくもない。 何故ならここは、廃虚の病院なのだ。 亡くなった人も大勢いるだろう。 私達の高校の北側の窓から少し離れた場所に、廃虚の病院が見える。 いつから使われていないのかは分からないが、病院は、膨大な量の雑草や木に覆われていて、誰も寄りつかない。 その病院へ私達は、肝だめしに来ていた。 夏休みが終わる前に、どうしてもやってみたいと、岩倉紗世莉(いわくらさより)が言い出したので、今ここにいるというわけだ。
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