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「やっぱり、覚えてないか。何を期待してたんだろ、私」
先程の敬語とは打って変わり、年相応の口調で少女は自嘲的な言葉を漏らす。
昔の知り合い、だろうか。薫は必死に記憶の糸を辿ろうとするが、しかし、闇の中で佇んでいられては、決定的に情報を欠いている。
ざっ、ざっ。少女は歩む。履いているのは、スニーカー。
「……わりい。顔見知りなのかもしれんが、覚えてないみたいだわ」
街灯の淡い光の下へと姿を晒した少女だったが、相変わらずその姿に見覚えはなかった。美少女の括りに入る顔立ちは、その神妙さを引き立てる。
「顔見知り、なんて浅い仲じゃありませんでしたよ、新堂薫」
「へえ、あんたは深い仲の俺を、フルネームで呼んでいたのかい。しかも敬語だし」
「……今更、そんなことは関係無い」
思わず、薫は少女の威圧感に後込みする。殺意とはまた違うが、何れにせよ明らかに敵意を含んだ感情が、まるで彼女から溢れ出ているようだった。
相手は女で子供。喧嘩になれば勝てる、が――何なのだろう。薫は、自分が少女を相手にしているとは、本能的に感じることができなかった。
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