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剥き出しのナイフのような淡白な殺意ではなく、鞘に収まった名刀みたいな、凛々しさと壮麗さを孕む殺意。――美しい殺意。
少女と同年代の子供には到底再現不可能な、魅せられ、酔わされてしまいそうな、その瞳。薫がたじろいでしまったのは、当然の経過だった。
逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ。薫の中で、狂った警報機が鳴り響く。この頃になって、彼は気付いてしまっていた。
あの少女が俺に抱いているのは、純粋な憎悪だと――
「……っ!」
けれど、動けない。
それは、蛇に睨まれた蛙。
薫の足は鎖で地面に縛り付けられたかのように、一寸足りとも動かせなくなっていた。恐怖ではない。単純に、少女の持つ雰囲気に圧倒されただけ。ただそれだけが、薫の足を石像に変えていた。
「…………」
その惨めな足掻きを、少女は何かしらの感慨を抱くのでもなく、ただ傍観していた。
大抵、対象はこういった反応を示すもので、彼もその埒内だった。それだけの話。少女には、見慣れた光景の一つでしかない。
だから、さっさと終わらせよう。
被った薄皮が、剥がれる前に。
――彼女は、おもむろに背中へと手を伸ばした。
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