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「お隣だったんですね。」
少し驚いた表情で上野がこちらを向く。
そして、はにかんだような笑みを漏らすと
「あ、それじゃあ、改めてよろしくお願いします竜司さん。 よかったら道場に来てみてくださいね。 待ってますから。」
「あ、ああ。 わかった。」
少し苦笑しながら俺は、上野がカバンから出したチラシを受け取る。
そこには、これまた日本伝統をのっとった様な字で剣道の入会を求む文字が書かれていた。
「それでは。竜司さんまた明日。」
はにかんだかわいらしい顔のまま言って、道場に向かって歩き出す上野。
それに俺は、
「ああ、また明日。」
と言って、軽く手を振った。
すると、何かを思い出したように上野がこちらを振り返り、
「私のことは、安奈で良いですよ竜司さん。 クラスの皆さんもそう呼んでくれていますので。」
言って、もう一度微笑んだ。
その笑みに俺は若干心をドクンとさせた。
まぁ、かわいいからしょうがないよな。
自分の心にそう言い付けて俺は最低限の笑みを作って、手を振りながら口を開いた。
「わかった。 んじゃまたな安奈。」
「はい、また明日です。」
自分が言ったとおりに呼んでくれた事が嬉しかったのか、安奈はもう一度微笑むと今度こそ道場の中に入っていった。
「さてと、俺も帰るか。」
安奈が家の中に入ったのを確認して俺は、向かいにあるどこにでもあるような普通の一戸建ての自分の家に入った。
★
「おはようございます竜司さん。」
「ん? ああ、安奈か。 おはよう。」
翌朝、俺が家を出たとき丁度学校に行こうとしていた安奈が満面の笑みで挨拶をしてきた。
早朝だと言うのに安奈は、まったく眠そうな顔をしていない。
朝が苦手じゃない俺でもこんな早くからここまでスッキリとした挨拶は出来ない。
「どうかしましたか?」
「ん、いや何でもないよ。」
自然と上目遣い気味に見上げてくる安奈に俺は言って、カバンをからい直す。
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