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「森村孝三郎先生でごさいますか?」
凛とした口調ではあるが、その中に妖しい響きを含んだ声は、口を開いた途端私の名を呼んだ。
「確かに私は森村孝三郎ですが、あなたのような方がこんな老いぼれに何の御用ですかな?」
「そんなにご謙遜をなさらないで下さい。申し遅れましたが、私は萩尾葵と申します」
彼は一言そう言うと深々と頭を下げた。
「こんな所で立ち話をしていたら風邪を引いてしまう。詳しい事は中で聞くとして、取りあえず入りなさい」
私は、寒さのせいで紫を帯びた彼の唇を見ると、すぐさま家に上がるように促した。
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