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「そこのラッキーな男性……キミはさっきまで本当に幸運だったよ、本当に。でも残念だけど」
「え?」
プリミングNo.150の男性にずっと寄り添っていた女性は声を上げた。
「キミは不運になったんだ」
悪魔の気紛れな呟きと共に、聞こえたのは、炸裂音。彼の体内で何かが、弾けた。
彼の腹部に添えられた両手は、それぞれ飛び、爆ぜた。
周りの人々の、音のない悲鳴。彼の腹部は思い切りえぐり取られた。
蓋を失い次から次へと肉から肉が零れ落ちていく。これが現実だと気付くと、込み上げてくる嘔吐感。それは彼から溢れる果てしない血液と比例して。
そして、男は最後に微笑んだ。大切な彼女へと向けて。
そう見えた。そしてそれが彼女を壊してしまったのかもしれない。極限、人間が何故、いつ壊れるかなんて実に呆気ない。
悪魔の凄惨な暇潰しはここから始まる。
隣で付き添っていた件の彼女も、爆風に巻き込まれ右腕が消しとんでいる。
「愛しの彼はもう死んじゃったね。本当に本当に心から愛してたってのに、現実は無慈悲で残酷だねえ。ああ、でももしかしたらまだ細胞単位では生きてる部位もあるかもしれないよ。リブとか、ロースとかさ。あはは」
淡々と流れるアナウンス。彼女以外の時間は凍りついている。
「君が彼への愛を示す方法はまあ色々あるだろうけど、やっばり弔うと共に、君は彼と一緒に在るべきだよね。知ってるかなあ? どっかの部族では愛する人を供養するためにその身体の一部を自らに取り込むんだってねえ、素敵な愛のカタチだよねえ。大切な人は自分の中で生きて、そしてその人が死ねばまたその人を大切に思う人が取り込んで……文字通り永遠に人々の中で生き続けることができるんだねえ。あはは」
女性の目は無カラットのダイアモンド。ただただ眼下に在る亡骸を見つめる。
「あれ……健さん? そうか……健さん……そうか……健さん……健さん……そうか……そうか……」
突然、何かをブツブツと呟く女性。スピーカーから、くすりと声が聞こえたような気がした。
「このままだと健さんは、燃やされて、誰にも共有されることなく灰になってしまうだけだねえ。今なら彼の魂もまだ肉体の中に宿っているかもしれない」
女性は急にえづき出し、ピクリと身体を震わせた。
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