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「伊織、殺されちゃうの?」
「僕は死なないよ」
「でも……」
涙目の佐織の頭を撫でる。
「大丈夫」
僕とそっくりな大きな瞳に、細い髪、薄いピンクの唇。
でも、佐織は僕よりもずっとずっときれいで美人だ。
「さっき父様と母様が言ってたの。私達のどちらかを隣の王国に送るって」
彼女は僕にとって何よりも、誰よりも愛おしい存在。
だから絶対に傷つけない。
君は僕が守るよ。命をかけて。
「大人の事情なんて知らない。僕は佐織を置いては逝かないよ」
大人の勝手に振り回されるのは飽き飽きだ。
佐織を泣かす大人が憎い。
「伊織……。それなら、逃げて。この国から」
「僕が佐織を置いて逃げると思う?」
「でも……!」
今にも泣きそうな妹。
君だけは泣かせたくないのに。
「僕はここに残る。佐織が僕になってここから逃げるんだ」
佐織はきれいだ。僕よりもずっと。
でも僕ら以外は、誰も僕らを見分けることができない。
双子の僕ら。そっくりな顔に声、体型。
「どうして?」
「城に残っても、人質になっても、僕達に待っているのは地獄だけ。僕だけならいいけど、佐織は不幸になってほしくない」
「それなら一緒に……」
一緒に逃げよう、そう言おうとしたんだね。
優しい優しい佐織。僕の姫君。
僕は彼女の言葉を遮った。
「駄目だよ。それじゃあ二人とも捕まる。どちらかが囮にならないと」
「嫌よ!」
「隣の国との契約は明日。今から準備をしよう」
誰にも内緒で僕達は計画を練る。
僕は罪人。
最後に大事な姫を泣かせてしまったね。
君を泣かしたことが罪でもいい。
君が助かるのなら。
君のためになら僕は喜んで命を差し出す。
そして、神にでも悪魔にでもこの魂を捧げよう。
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