第一章 出逢いと転機の宵闇

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   ああ、夢だったらいいのに。  これまで何度となく思った。  目を閉じて、もう一度開けたら温かい布団の上。つらいことは全て夢のせいにして、すっきりした朝を迎えたい。願った回数は数えきれない。  今回も祈る。そう、これはきっと夢。悪い夢なんだ! と。  そうすることで苦い現実が覆ったことは、これまで一度なかった。  だけど、認めたくないじゃないか。死んじゃったなんて──。 「……おはようございます」 「………………ぇ?」  見知らぬ少女が俺を見下ろしていた。  病的にも見える白い肌。両目の真下、頬にだけ微かな赤みがさしていて、淡雪のような肌によく映えている。  クリーム色がかった艶やかな白い髪が、うつむき加減な彼女の顔を覆っている。その奥で、まだあどけない瞳がこちらを見つめている。まるで上質なガラス細工のように、透明感のある赤だ。  ぼんやりと、引き込まれてしまいそうなその双眸を見つめていると、彼女はいぶかしげに眉を寄せ、口を開いた。 「あの……起きてます?」  キレイな声だ。濁りやノイズの一切混ざらない、澄んだ声。  小さく上下する唇から、それは次々と飛び出してきた。 「目、開けたまま寝るタイプの人なんですか?」 「……あ、いや……え?」 「あ、ちゃんと起きてますね」  そう言って一人頷くと、彼女はその場に立ち上がった。腰の辺りまである髪が宙を流れ、微かに金木犀の香りがした。 「夕餉の用意が出来ています。ささ、こちらへどうぞ」  部屋のふすまを開け、彼女は俺を呼んでいる。  状況をイマイチ把握出来ていない俺は、誘われるまま、彼女の後に付いて行くのだった。
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