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ああ、夢だったらいいのに。
これまで何度となく思った。
目を閉じて、もう一度開けたら温かい布団の上。つらいことは全て夢のせいにして、すっきりした朝を迎えたい。願った回数は数えきれない。
今回も祈る。そう、これはきっと夢。悪い夢なんだ! と。
そうすることで苦い現実が覆ったことは、これまで一度なかった。
だけど、認めたくないじゃないか。死んじゃったなんて──。
「……おはようございます」
「………………ぇ?」
見知らぬ少女が俺を見下ろしていた。
病的にも見える白い肌。両目の真下、頬にだけ微かな赤みがさしていて、淡雪のような肌によく映えている。
クリーム色がかった艶やかな白い髪が、うつむき加減な彼女の顔を覆っている。その奥で、まだあどけない瞳がこちらを見つめている。まるで上質なガラス細工のように、透明感のある赤だ。
ぼんやりと、引き込まれてしまいそうなその双眸を見つめていると、彼女はいぶかしげに眉を寄せ、口を開いた。
「あの……起きてます?」
キレイな声だ。濁りやノイズの一切混ざらない、澄んだ声。
小さく上下する唇から、それは次々と飛び出してきた。
「目、開けたまま寝るタイプの人なんですか?」
「……あ、いや……え?」
「あ、ちゃんと起きてますね」
そう言って一人頷くと、彼女はその場に立ち上がった。腰の辺りまである髪が宙を流れ、微かに金木犀の香りがした。
「夕餉の用意が出来ています。ささ、こちらへどうぞ」
部屋のふすまを開け、彼女は俺を呼んでいる。
状況をイマイチ把握出来ていない俺は、誘われるまま、彼女の後に付いて行くのだった。
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