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部屋を出ると、そこは縁側だった。目の前に広がる庭先には白っぽい砂が整然と敷かれ、数メートル離れたところに灰色の大きな岩がひとつ、どーんと置いてある。その向こうに……あれは松か? 緑に色づく針葉樹が、まばらに植えられている。
さらにその向こう。俺の身長のおよそ二倍ほどの高さを持つ塀が左右に伸びている。その長さから推測するに、敷地の広さは五十メートル四方ってとこだろうか。俺の住んでる一軒家よりもずっと広い。
「……シカトはいけないと思います」
「へ? あ、あぁ、ごめん」
いつの間にか少女が隣に立っていた。まったく気付かなかった。日本史の教科書に載っているような屋敷に、知らぬ間に心を奪われていたらしい。
自分を、つくづく日本人だなぁと思うことがある。たとえ記憶に残っていなくとも、先人たちの『和』を愛する心は、俺の中の奥深くに根付いており、こういう風景に対して震え出す。俺だけじゃない、誰だってそうだと思う。
「ぼーっとしてると迷子になっちゃいますよ」
彼女はくるりと俺に背を向け、歩き始めた。今度はしっかりとついて行く。
ひとつ、角を曲がった。すると、大きな門が現れた。木製で、ところどころに金具のついているいかにも頑丈で重そうな扉だ。
そういえば、ここはどこだろうか。家の近くにこんな立派な屋敷なんてなかったハズ……。
「見ての通り、そこの門から外に出れます。けど、勝手に出てっちゃダメですよ?」
そう言いながら、彼女はある一室のふすまを開けた。
「ささ、どうぞお座りくださいませ」
「うお、すっ……げえ」
八畳ほどの部屋の真ん中に卓袱台が置かれており、色々な料理がその上に並んでいた。
ご飯、お吸い物を始めとし、山菜の天ぷらや芋の煮物など、和食の数々。それらの中心に置かれた、頭と尾ひれのついた鯛の刺身の迫力は圧巻だった。
自然と唾が出る。そういえば、やけに腹が減っていた。
「ごゆっくりどうぞ。私は後片付けがありますので、こちらで待たせて頂きますね」
部屋の隅っこで突っ立ったまま彼女は言う。
ずっとそうしているつもりだろうかと少し心配になったが、俺が腰を下ろし、いただきますと呟くのを見て、彼女も腰を下ろしたようだった。
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