第零章 絶望と悲壮の常闇

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   計画を実行する前に、あらかじめネットで色々と調べておいた。首吊りは、平均だいたい7秒くらいで意識を奪うらしい。なんでも、首の横を走る動脈が締め付けられてうんたらかんたら。それよりも、だ。 「誰かが実践して、実際に時間を計ったんかな?」  しかも、平均7秒という具体的な数字まで。何度か回数を重ねないと、平均の値は出せないし……何度も何度も吊らせたというならば酷い話である。  それとも自殺を謀り、死に損なった誰かが「俺7秒間は意識あったぜ」とでも発表したのだろうか? だとしたら、そいつは余程の馬鹿に違いない。  ……ま、そんなこと今はどうだっていい。どうせあと数分で俺は死ぬ、この世の不思議に思いを馳せたって意味はあんまり無い。  それより、あっちの世界について考えてみる方が、よっぽど楽しくて何倍も有意義だ。  天国? 地獄? 三途の河とか渡るのか? それとも……ただ真っ暗な世界? もっと別の何か? だとすると……そこはどんな世界なんだ?  無限に広がるイメージ。創造される幻想。頭に浮かぶそれらの姿は、天空の花畑であり、地底の獄炎であり、彼岸花の咲き乱れる川岸であり、塵芥も存在しない虚無の深淵。  あとは……輪廻転生って言葉があるな。だとすれば、俺の前世は猫だ。自由奔放なあたり、今の俺とそっくりだ。  後世は……人間がいいな。人間ってのは汚い面ばかり持ってるけど、その中に時折光る美しい姿に惚れ惚れした。結構イイ生物じゃんって、心底思った。  人間がいい。人間になりたい。もし叶うのなら。  俺も人間になって、俺も人間と一緒に────。  時は宵の刻。すっかり濃くなった紫色の空には、鋭い両端を持つ三日月が浮かんでいる。
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