第零章 絶望と悲壮の常闇

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 首からロープを外す。落下したということは、ロープが切れたか枝が折れたか……折れるような枝には結んでないし、原因はロープの方か?  案の定、首から数十センチ上のところでロープが切れていた。否、斬れていた。  切断面が異常だった。何か鋭い刃物で切り裂いたかのように角がぴんと立ち、編み込まれた繊維が全て同じ高さで揃っている。  いくら不良品でも、こんな切れ方はしないだろう。とは言え、とてもじゃないが人間業とは思えない……。 「私がやったの」 「へっ?」 「コッチよ。上、上」  どこからか声がした。言われるがままに頭上を見上げる。真っ黒な空が見えた。曇り空だった。その曇の切れ間から覗く三日月の光が、周囲をぼんやりと浮かび上がらせている。  しかし、声の主の姿はどこにも見られない。 「ねぇ」  あたかも耳元で囁かれているかのように、甘く、頭に入り込んで来る声。うっとりするような透き通った声だ。  頭がぼうっとする。荒み、興奮していた気分も安らいでいく。このまま眠ってしまいたい──。 「いらないんでしょ? その命。なら……」  ぼんやり眺めていた月が二度、強く瞬いた。青白い光が降り注ぎ、網膜を刺し貫いた。 「っ……あっ」  視界を白が染めた。思わず目を伏せた。目の奥の方が、じんじんと痺れるように痛む。反射的に、右の手のひらで両目を覆った。  頭がぐらぐらする。目が回ったような、乗り物に酔ったような……平衡感覚が完全にイカレていた。 「私に寄越せ」  瞬間、脳が歪んだ、気がした。 「あ……ぎっ」  稲妻でも走ったかのように、頭を激痛が襲う。あまりの痛みに、膝から力が抜けた。崩れるように地面に倒れる。仰向けとなり、空を見上げる形となった。  痛みはすぐに治まった。固く閉じた瞼をおそるおそる開く。眩んでおかしくなった目はもう治ったようだ。周囲を照らす月が、視界の真ん中に浮かんでいる。  思わず目を疑った。  頭がおかしくなっていた。
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