60人が本棚に入れています
本棚に追加
首からロープを外す。落下したということは、ロープが切れたか枝が折れたか……折れるような枝には結んでないし、原因はロープの方か?
案の定、首から数十センチ上のところでロープが切れていた。否、斬れていた。
切断面が異常だった。何か鋭い刃物で切り裂いたかのように角がぴんと立ち、編み込まれた繊維が全て同じ高さで揃っている。
いくら不良品でも、こんな切れ方はしないだろう。とは言え、とてもじゃないが人間業とは思えない……。
「私がやったの」
「へっ?」
「コッチよ。上、上」
どこからか声がした。言われるがままに頭上を見上げる。真っ黒な空が見えた。曇り空だった。その曇の切れ間から覗く三日月の光が、周囲をぼんやりと浮かび上がらせている。
しかし、声の主の姿はどこにも見られない。
「ねぇ」
あたかも耳元で囁かれているかのように、甘く、頭に入り込んで来る声。うっとりするような透き通った声だ。
頭がぼうっとする。荒み、興奮していた気分も安らいでいく。このまま眠ってしまいたい──。
「いらないんでしょ? その命。なら……」
ぼんやり眺めていた月が二度、強く瞬いた。青白い光が降り注ぎ、網膜を刺し貫いた。
「っ……あっ」
視界を白が染めた。思わず目を伏せた。目の奥の方が、じんじんと痺れるように痛む。反射的に、右の手のひらで両目を覆った。
頭がぐらぐらする。目が回ったような、乗り物に酔ったような……平衡感覚が完全にイカレていた。
「私に寄越せ」
瞬間、脳が歪んだ、気がした。
「あ……ぎっ」
稲妻でも走ったかのように、頭を激痛が襲う。あまりの痛みに、膝から力が抜けた。崩れるように地面に倒れる。仰向けとなり、空を見上げる形となった。
痛みはすぐに治まった。固く閉じた瞼をおそるおそる開く。眩んでおかしくなった目はもう治ったようだ。周囲を照らす月が、視界の真ん中に浮かんでいる。
思わず目を疑った。
頭がおかしくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!