はじまり

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「どうしたの幸輔くん。元気ないよ?」 「……あ、ああ、ちょっとね」  いけない。バイト中だというのに今日あったショッキングな出来事を思い出して上の空になってしまっていたようだ。  幼馴染みの家庭教師というぬるい仕事とは言え、一応おばさんからバイト代は貰うことになっているのだ。真面目にやらなければいけない。 「幸輔くん、もしかしてまた食生活崩してるんじゃないの?  駄目だよ。お菓子やコンビニのお弁当ばっかり食べてちゃ。元気なくなっちゃうんだから、なんだったら今度私がご飯作りにいってあげよっか」  ……いつものことだから慣れたけど、年下の幼馴染みに説教される僕ってどうなのだろうか。歳なら三つ、身長に至っては四十センチ近い差があるのに。 「琴乃(ことの)はそれより先に勉強しろ。なんだよ、この結果は」  得意気な顔で無い胸を張る幼馴染みの日ノ出(ひので)琴乃の額にデコピンをかまして、その眼前にバツだらけの答えあわせの結果を突き付けてやる。 「いたた……。その、これは、たぶん解答欄を一個ずれて答えちゃったんだよ」  琴乃が僕の視線と眼前に突き付けられた間違いだらけの解答用紙から目を背けるようにそっぽを向きながら、言い訳を口にする。 「式まで書く数学の問題集でそんな器用な間違えかたが出来るかよ!」  大方、高校に入ったばかりは中学の復習が中心だったから慢心して勉強をサボっていたのだろう。  よくあることだが、ここはいっちょ気を引き締めてやらなければならないだろう。 「そ、それよりさ幸輔くん……」 「それよりじゃない! 全く……こんな最初のところでつまずいてちゃ、ウチの大学に来るなんて夢のまた夢だぞ」  話を逸らそうとした琴乃に強い口調できつい言葉を投げ掛ける。  高校一年生の一学期にして琴乃は僕も通う地元の国立大学への進学へと進路を決めていた。琴乃の通う高校は進学校だし、地元の国立大学への進学を目指すというのは確かにスタンダードだろう。 「え!? それは困るよ!」  そっぽを向いていた琴乃が、僕の言葉を聞くといかにも困っていますといった様子で助けを求めるような視線を僕に向ける。  一見スタンダードに見える進路だけれど、琴乃の同級生なんてうちの妹しか知らないのだけれど、琴乃程進路に拘りを持っている人間は高校一年生では居ないんじゃないか。そう思う程に琴乃のこの進路に対する拘りは強い。
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