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「困るだろう? だから真面目に勉強しなさい」
「うぅ……勉強嫌いなのに」
そんなこと、言葉に出してぼやかなくてもわかる程に実に嫌そうな顔でだが、琴乃はペンを持ってバツだらけのノートに向かい、間違った場所を解き直し始めた。
目標がある人間はやっぱり頑張りが違う。最初にその目標を聞いた時には「無理だ」と言って大笑いしたものだけれど、あと二年半以上この頑張りを続けられれば、確実に目標手が届くレベルになれるだろう。
気がつけば、知らず知らずのうちに僕の手は、頑張り屋の僕の生徒の頭へと伸びていた。
「はう!?」
唐突に頭を撫でられた琴乃は、驚いたのか小さく悲鳴を上げながらだらしなく曲げていた背筋をピンと伸ばす。
「あ、邪魔してごめん」
慌てて手を引っ込めたが、琴乃は勉強に戻ろうとはせず自分の頭を撫でた僕の右手をうらめしそうな目で黙ってじっと見てくる。そんな怒ることでもないだろうに……。
「ねえ、幸輔くん」
むっつりと口を真一文字に引き結んで僕の頭を見ていた琴乃が、唐突に会話を振ってくきた。
「なんだ?」
「私が幸輔くんの大学を志望校にした理由、知りたくない?」
「いや、全然」
「いいから聞けー!」
いかにも話したそうな期待に満ちた視線を向けてくるものだから、ついからかいたくなって振られた質問に嘘で返したら、琴乃はむきになってノートをなげつけてきた。これだから琴乃をからかうのはやめられない。
「はいはい。仕方ないから聞いてあげる。聞いたら勉強に戻れよ?」
地面に落ちたノートを拾いながら、条件を付けて上から目線で志望理由を話すことを許してやる。実際は今まで聞いてもはぐらかされてばかりだったから僕も気になってはいたんだけどね。
「そんな偉そうな言い方されても話さないもん!」
「お前が話したくて言い出したんだろ、僕はどうでもいいから別に聞いてやる必要もないんだけど?」
「むきぃぃっ!」
奇声をあげながら今度は手にしていたシャーペンが投げつけられる。……避けたからいいものの、こいつのシャーペン、フリシャーじゃなかったっけ? 金属部品の入ったちょっと重い奴。
「嘘嘘、冗談。俺も聞きたいから話してください」
このままでは流石に怪我しかねないのでからかうのを止めて、下手に出て琴乃の話を聞いてやることにする。
「……やだもーんだ」
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