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「今の玲子はおしゃれで綺麗。ブランド物も似合うし、仕事もできる。それが素敵だって世の中は騒ぐじゃない? でもね、どんなに着飾るよりも本当の自分が一番素敵なんだよ? 小説を書いていて、いつも小説の中では素直だった頃の玲子のほうが私には素敵に見える。
大丈夫、誰も玲子を嫌いな人はいないんだから。私も、職場の人も、家族や同級生も。だから、辛かったらいつでも還っておいで。無理しなくていい、玲子は玲子らしく生きなきゃ。ここが玲子の還ってくる場所なんだよ」
還っておいで……。無理しなくていい……。
私はその言葉を待っていたのかもしれない。私の心の中にあったもやもやとした大きな塊はすっとどこかへ消えてしまった。
私は1週間の休暇をすごして、都会に戻った。仕事は忙しいし、相変わらず世の中はせわしなく動いていて、流されてしまいそうになるけれど、そんなときには深呼吸して郁子の言ってくれた言葉を思い出す。
休暇から戻ったなにもなかった殺風景な部屋にはあの日2人で取った写真が飾られている。そして、小説を少しずつまた書き始めた。仕事で疲れて、眠い目をこすりながらそれでも書いてそれを応募した。だけど、学生の頃のいろいろな気持ち━━期待や不安、変な意地みたいなもの━━はなかった。1年近くかかって書き上げた小説をポストに投函した日は偶然にも私の25歳の誕生日だった。
カレンダーが4月に差し掛かる頃、生まれて初めて一次選考を通過したという通知が私の元に届いた。満員電車は辛いし、高いヒールの靴は痛い。仕事で怒られることもしょっちゅうだし、スーツは窮屈。空も綺麗じゃなくて星は見えないいけど、いつでも還る場所があるから私は今日もここで頑張れる──。
始
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