私の還る場所

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獰猛【どうもう】の獰と檸檬【れもん】の檸は似ていると、国語の資料集をめくりながら思った。窓の外は冬の空気を含んだ冷たい雨が音も立てずに降り続いている。カレンダーは11月。赤いマジックで学祭のところに大きなマルがついている。黒板の端っこには学祭まであと○○日と派手にカウントダウンまでされている。  私は窓際の一番後ろの席でこっそりばれないように左耳にだけイヤフォンを差し込んで、昔の音楽ばかりを聴いている。左手で頬杖をついて、耳を隠して。教壇では、のんびりと男性教師が授業をしている。私以外の教室の住人は、それぞれの方法で授業時間を費やす。大半は真面目に過ごし、堂々と眠るもの、こっそり眠るもの、携帯に夢中になっているもの、きっとどこにでもある風景がここにはある。17歳、世の中はこの時間を一番輝かしいという。私は自分のしたいことを見つけないといけなくて焦っていた。自分のしたいことというよりは、将来の夢を。ニュースや新聞は夢を持たせてはくれなかったし、現実というものが厳しいというのは漠然とわかっていた。だけど、私はまだたった17歳で将来のビジョンを見出せずにいた。 同じ年のミュージシャンや芸能人をテレビで見ると、羨望と嫉妬のまなざしで見なければならなかったし、自分のプライドというものもある。いつか自分もあのライトを浴びたいという願望。 だけど、そのプライドを突き通せるほど強い意志を持っていなかったし私自身もそれに逆らうつもりはなかった。17歳で一生を決めるのは本当に輝かしいことなのかなぁ、なんて矛盾を持っていた。 「ここ、期末に出るからなぁ」 のんびりと教師が言って、私は事務的に赤ペンで教師の言った部分にチェックを入れた。勉強はそこそこにやっていけばついていけたし、友達もいないわけじゃなかったから学校生活に大きな不満はなかった。むしろ楽しかった。だけど、いつもなにか不安がそこにはあった。  小さいチャイムが間抜けに響いて、授業は終了を迎える。教師が教室から出ると、みな一様に背伸びをしたり、仲のいい友人のところへ向かう。
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