傷痕

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「違う。そうじゃない。君が、僕なんかの為にそこまでしてくれた事が嬉しかったんだ。…ありがとう」 「あなたが嬉しいのなら良かったです。…お母さんは大丈夫ですか?」 そういえば、一応失恋したんだよな。 でも、そんな心配はいらなかった。 メールには、こう書いてあったんだ。 「何となく、こうなるような気がしてたのよ~。ま、何かすっきりしたわ。 それより、うちに来たあの人、知り合い?今度紹介してよ」 「大丈夫みたいだよ。元気そう。寂しいから帰って来いって」 「元気そうなら良かったです」 「うん。あのさ、樹。これ…」 僕は、樹の左手を取った。 いつか、樹が話してくれるまで、傷痕の事は聞かないでおこうって思ってたけど、それじゃダメなんだ。 「見つかってしまいましたか…」 樹の表情が強張った。 「ごめん。でも僕、いつも君に助けてもらうばかりだから、君を助けられるなら助けたいって思って。もし、話して苦しみが楽になるのなら、いくらでも聞く。無理にとは言わないけれど…」 「巴…」 「…痛かっただろ」 まだそれほど古くない、樹の傷痕にそっと口づけた。
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