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「樹、ごめんね」
僕はやっと、樹がYシャツネクタイ姿だって気付いたんだった。
「ん? 何がですか」
樹はその格好のままベッドにごろごろしている。
僕も便乗して、樹の隣にごろごろしていた。
「フランス、行くところだったんでしょ?」
確か、今日行くって言っていたような気が…。
「ああ、そうでしたね」
樹は慌ててポケットから携帯を出して、ごろごろしたまま電話をかけた。
樹の持ち物は、家具も鞄も筆記用具も黒。
携帯ももちろん黒なのだ。
「今日の夕方の便を予約したのですが、キャンセルしたいのです…。ええ、お願いします」
さすが樹、こういうの、慣れてるんだ。
それから、手慣れた操作でメールを打った。
「どうしたんです? じっと見て」
メールを送って携帯を置いた樹が、微笑んで言った。
「何でもないよ」
自然と、僕も笑顔になった。
「よかった。笑いましたね」
樹が僕の頭を撫でたけど、もう怖くなかった。
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