傷痕

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「ねぇ樹、教育係って?」 素朴な疑問だった。 「教育係は教育係ですよ。僕は彼…エミールに日本語とか礼儀作法とかそういう事を教わりました」 礼儀作法…? 「樹、もしかしてお坊ちゃん、とか?」 仕草が優雅で異様に姿勢がいいのはそういう事なのか? 「まぁ、一応。社長の孫になりますから。でも、僕より単の方が育ちはいいですよ」 へ? 単さん? この街で一番大きい、大沢総合病院の院長の息子だって聞いてるけど、そんなに凄かったのか…。 院長の息子という立場をあなどっていたな、僕。 でも、樹からは予想外の言葉が出てきた。 「桐沢グループを知っていますか?」 「うん」 テレビでCMやってるから僕でも知ってる。 食品とか服飾とか色々扱ってる、大きい会社だ。 「単はそのトップの息子です。といっても五男ですけど」 「…え? そうなの?」 知らなかった。 単さんが医者をしている弟と血が繋がっていないっていうのは龍司さんに前聞いたけど…。 「元は『桐沢単』だったんですよ。男の子が5人もいるからって、跡継ぎのいなかった大沢の家に養子に出されたんです。大沢のお祖父様と桐沢のお祖父様は親友だったそうですし。まぁ結局、単が養子に来てから京一郎叔父様が生まれましたから、ちょっと皮肉な話になってしまいましたけど」
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