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「ねぇ巴、寝たら怒りますか?」
樹がもう限界って顔で、欠伸をしながら言った。
「いいよ」
「膝貸して下さいね。…おやすみ…」
カーペットの上に座った僕の膝を枕にして、樹は寝息を立て始めた。
今まで樹をじっと、細かい所まで見た事なんてなかったから、じっくり観察してしまった。
目を閉じていても綺麗な顔、首筋の黒子、スラリと伸びた腕、不器用なのに上手にピアノを弾く、指の長い手。
そして、左の手首に僕はそれを見つけてしまったんだ。
横に一文字に切られた傷痕と傷口を縫った痕。
いつもは腕時計をしているから気付かなかった。
「樹…」
いつも穏やかで、優しい樹の、手首を切りたくなるような心の闇…。
…僕は全然気付かなかったんだ。
いつも頼るばかりで…。
心が痛くなった。
樹だって辛い事、あるはずなんだ。
それなのに、樹は何も言わない。
いつも穏やかに微笑んで…。
「巴…愛してます…」
寝言だった。
「僕も、愛してるよ」
照れくさくて、面と向かって言った事のない台詞を、樹の寝顔に呟いた。
「うん…」
樹は幸せそうに微笑んでいた。
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