傷痕

「巴は夏休みは実家に帰るんですか？」
放課後、クレセントに向かう途中で樹が言った。

そういえば、全く考えていなかった。

僕は現在、叔父である龍司さんのアパートに下宿しているのだ。
表向きは高校に通うため。
本当は、母親の彼氏が嫌いだから。

半ば家出同然なんだけど、夏休みくらい帰らなきゃダメだよなぁ…。

「一応帰るかな。樹はどこか行くの？」
歩きながら、綺麗な顔立ちの恋人を見た。
「ええ。フランスに行く予定です」
樹はそれを普通に答える。

まぁ、樹は日仏ハーフで、フランス生まれのフランス育ちで今年の1月までフランスに住んでいたんだから、親戚とかいるんだろう。
樹は今は父親の単さんと暮らしているけど、母親の話は聞いた事がない。

理由があって離れて暮らしてるのかもしれないとか、何か複雑な事情がありそうで、僕からは詳しい事は聞けない。

「１週間くらい日本を離れますから、その間は会えなくなりますね」
樹は少し寂しそうに言った。