傷痕

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僕の膝から頭を起こして、樹は僕の隣に座った。 俯いているから、表情はわからない。 「…暗い話になりますが、聞いてくれますか?」 僕は黙ってうなずいた。 「フランスにいた頃、僕は祖父の家にいたのですが、祖父が病気になって、叔父夫婦と暮らしていた時期がありました。ま、可愛がってもらいましたよ。…表向きには。僕は、毎晩のように叔父夫婦から暴行を受けました。優しかったエミールとも離されました。あなたに会ったのはそんな時だったんです。僕はあなたに勇気をもらって…あなたを心の支えにして何とか耐えました。…まぁ、叔父夫婦と暮らしたのはそんなに長くはなかったんですけどね。母の兄にあたるアルセストが僕を助けてくれたんです。アルセストのお陰でエミールに再会出来ました。エミールにあなたの事を話したら応援してくれたんですよ。僕は生きる希望を持ったんです」 いつの間にか、樹は僕に寄りかかっていた。 「でも…アルセストもエミールも留守にしている時に、叔父が来たのです。そこで…僕は…叔父に犯されました。こんな汚れた姿ではあなたに会えないと思いました。後は、駅にいたあなたと同じ…死のうと思って手首を切りました」 樹の肩は微かに震えていた。
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