311人が本棚に入れています
本棚に追加
乗り継ぎの度に山岸がいないかビクビクして、山岸に似たような背格好の人に怯えて、僕は何とか龍司さんのアパートの最寄り駅まで帰ってきた。
駅に着いても、アパートに帰る気にはならなかったけど…。
龍司さんにも合わせる顔がない…。そう思った。
帰れる場所もない…。
樹にも会えない…。
それに、身体の中が気持ち悪い…。
いっそ、次の電車が来たら、線路に飛び込んでしまおうか…。
そう思って電車を待っている時だった。
僕の肩を叩く人がいた。
心臓がドキドキして、息ができなくなった。
「巴?」
恐る恐る振り返ると、一番会いたくない相手がそこにいた。
「樹…」
樹の顔を見たら、一度は止まっていた涙が、再び溢れてきた。
「巴? 大丈夫ですか? 顔が真っ青です」
優しい樹の言葉に、僕は何も返す事ができなかった。
「巴…。わかりました。とりあえず、うちに行って休みましょう」
黙って樹についていって、タクシーで連れて行かれたのは樹の家だった。
最初のコメントを投稿しよう!