傷痕

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「家に帰ったら、あいつがいたんだ…」 「あいつ?」 「母さんの恋人で、山岸哲ってヤツ」 「…」 「家にはあいつしかいなくて…襲われた」 「…そんな事があったんですか」 樹が身体を硬くするのがわかった。 「怖くて逃げて来た。何か、自分が汚れてしまったみたいで…こんなんじゃもう、君に会えないって思った。気持ちも悪くて…それで、いっそ死のうかって思ったら君が来たんだ」 「よかった…間に合って。大切な人を失うのはもう…」 樹は僕をきつく抱き締めた。 「巴、辛い思いをさせてごめんなさい」 「君は悪くないよ。…ありがとね、樹。君がいてくれてよかった」 僕の動悸はいつの間にか収まっていた。 「巴、少し落ち着きましたか?」 樹の声が優しくて、温かかった。 「うん。…ありがとう」 樹の腕の中ってなんて落ち着くんだろう…。 僕たちはしばらくそのまま抱き合っていた。
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