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「ふふ、ジョーンズ、それは無理なお願いだわ」
目の前でふわり、とブロンドの髪を揺らして微笑む女性はそんな悪口を言った。
きっちりとしたフォーマルスーツを着て、いかにも働く女性、と言った雰囲気が感じられる。
彼女は上司直属の部下で、秘書の役目も請け負っているから、自然と俺とも仲良くなった。
「…分かってるさ、言ってみただけ…あ、それ取ってくれよ」
「はい、…でもジョーンズがそこまで休みが欲しいなんて、珍しいわね?」
彼女が意味ありげに笑うから、ちょっとどきりとした。
だって、イギリスにもう3週間近く会ってないんだ!
「え、あー…まあ、ね」
「あらあら、彼女かしら?」
「っち、違うよ!」
「まあ、アルに居てもおかしくはないよな!」
突如として現れたもう一人の声に内心驚きつつも、すぐに誰か分かった。
「あら、皆さんお帰りなさい」
「ご苦労様ー。なんか仕事増えたりするかい?」
これ以上増えたら発狂しそうだけど。
ああ、早く仕事を全部終わらせてイギリス行きの飛行機に乗るんだ。ああ、飛行機じゃ遅い。ジェット機でも飛ばそうか。
「楽しそうな妄想中に悪いな、アル」
「…ワァオ…」
同僚のジムがにやにやしながら置いたのは、茶封筒と大量の書類。
足が勝手に駆け出しそうになる。勿論イギリスの方へ。
「逃げていいかい…」
「駄目だ」
「こんなデスクワークばっかり…」
「そう思ったよ、アル。封筒の中身を見てみな。俺からのプレゼントだ」
「…?」
淡い期待を持ちながら、積み重ねた書類の上の封筒を手に取る。
中には3枚ほどの、やはり書類。でも嫌悪感は浮かばない。表紙の字を見て、思わず頬がにやけた。
「米と英の…国際会議…!」
「あら、イギリスと?」
「うん!そうみたいだ…!」
「…アルの彼女はどうやら国際関係の仕事みたいだな」
「!?、っな、あ!」
思わず、デスクにあった書類をばさばさと落としてしまった。
な、なんでいきなり変な事を言うんだ!ジム!!
「いやぁ、さっきまで元気無かったアルが喜んだからなあ」
「もしかして、彼女はイギリス人なの!?」
「え、いや、っと」
ああああ…どうしよう…!
イギリスはこういうのばれるの嫌いなんだよなあ…ていうか彼女って…いや、彼女だけど!確かに!
あわあわしてると、ポケットから微かなバイブ音がした。とにかく仲間達からの追求に逃げたくて慌てて電話をとる。
『もしもし?』
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