第三章

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 「はい」  返答は短く堅い。  仰々しい態度もすごく嫌で仕方なかったが、そんな状況を終わらせるためにも少し速い動作で手を伸ばした。あれほど触れてみたかった物なのに、気付けば指先は小刻みに震えている。  そんな自分を叱責して、雪は柄をにぎった。  「!」  握りしめた瞬間、指先から津波が押し寄せた。猛り狂う、波。家を、人を、街を。壊しては押し流す大波。しかもこの波は、氷のような温度で。  それによって、全身が一気に冷える。指先から剣に血液が流れ、そこで液体窒素になった血が、再び体内に返ってくる。そんな感覚。  身体が凍り付かないのが不思議なくらいだった。流れ込む何かが多すぎて、圧倒される。  「―?!」  始まりと同じように、それは突然終わった。  肩で息をして、改めてその剣を見る。不思議なことはすでに慣れっこだったので、今のことについて、譲葉に聞いてみることはしなかった。  「ゆずり…」  「どうか、そのままお聞きください」  
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